「初心忘るべからず」の真意


「初心忘るべからず」これは世阿弥が生み出したという言葉であま
りにも有名です。今の仕事を始めたときのことを覚えているでしょ
うか。お店をオープンしたときのことを覚えているでしょうか。そ
の頃、どんな気持ちで毎日仕事をしていたでしょうか?


「初心忘るべからず」は、一般的に「はじめの志を忘れてはならな
 い」という意味で使われいています。

ただ、世阿弥が言った「初心忘るべからず」は、もう少し複雑で繊
細な意味を持っているといいます。


世阿弥が言う「初心」は「最初の志」に限られてはいません。

世阿弥は、人生の中にいくつもの初心があると言っています

若い時の初心、人生の時々の初心、そして老後の初心。それらを忘
れてはならないというのです



長く仕事を続けていくと、この「初心忘るべからず」はついつい忘
れてしまいます。

長く続けていくと、いい意味でも悪い意味でも、そこに“慣れ”と
いうものが出てきてしまいます。

営業でも美容室でもそうですが、オープンした頃はどうだったか?

特に個人経営の美容室であれば、何をするにしても心が一つ一つに
こもっていたはずです。

大した事を何一つやっていないけども、心がこもっていたはずです。

チラシやダイレクトメール一つとっても、心がこもっていたと思う
のです。

それが、何年か過ぎてくると、儲け丸出しで、話一つとっても相手
(お客)の話を聞くどころか、こちらの話を伝える事に必死


いつしか初心は忘れてしまう。

心を込めて“やっているつもり”になってしまっている


ある美容室のオープン当初の話で、物凄く印象に残っている話があ
ります。

オープン初日は、当然、友人、知人が尋ねて来てくれたり、以前勤
めていたお店のお客も来店してくれたりと、とても賑やかに初日を
迎えることができた。

ところが、早くも二日目には、ぱったりと誰一人として来店しない。

閉店時間近くになっても誰一人として、やはり来店しない。


そこへ一本の電話が掛かってきた。

オーナーの奥さんからだった。

奥さん「今から、髪だけ洗いに行ってもいい?」

オーナーは、すぐにピンときたらしく、「こいつ(奥さん)、客が
来ていないだろうから気を利かしてるんだな」と。

すると不思議な事に、「カットいいですか?」と一人の男性が来店
してきたそうです。

オーナーは、泣きながらシャンプーしたのを今でも覚えていると私
に教えてくれました。

お客がたった一人でも来店してくれることの有難さや難しさ

そして、それが私の商売としての原点なんですとも言っていました。

私はこの話を聞いて、ほんとにいい話で、思わず泣いてしまいまし
た。感動して。


今やこのオーナーは、日本で最初にヘアカラー専門店を立ち上げる
ことに成功し、全国展開しています。


このオーナーが特別なわけではなく、それぞれにオープンしたとき
には、誰しも苦労があるはずで、それを乗り越えてやっているはず
です。

ですが、いつしかその苦労のようなものを忘れてしまうのではない
か、やっているつもりになっているのではないかと思うのです


平成という時代も終わろうとしています。

令和という時代になったら世阿弥ではありませんが、令和の初心を
忘れないようにしたいものです




今回登場した世阿弥の「初心忘るべからず」は、髙田明さんの「髙
田明と読む世阿弥」で初めて知ることとなりました。

髙田明さん「髙田明と読む世阿弥」



【関連記事】
笑顔

日頃のリアクションを大事にする

まず自分で自分を見てみる

コメント

非公開コメント